湘南を愛し、自然と共に暮らす葉山唯一の女性漁師、畠山晶さん

2018年春のリニューアルで新しく生まれ変わるテラスモール湘南。これからも自分らしく前にすすむ湘南の皆様と一緒に歩んでいけたら。そんな想いを表す言葉として、「すすもう、湘南。」をテラスモール湘南は掲げました。

Terrace Mall Magazineでは、「自分らしく前にすすむ湘南の人々」のリアルな生き方を今回のリニューアルに重ねあわせ、イメージビジュアルにご登場いただくほか、インタビュー形式でもご紹介していきます。

今回は、葉山で唯一の女性漁師をされている、畠山晶さんです。

漁師といえば、荒波を乗り越え、波と天気と自然と闘いながら魚を獲る荒々しい男たち。そんな中、葉山の海でたった一人、女性漁師がいるそうです。その方こそが、畠山晶さんです。

きっかけは、鎌倉の女性漁師との出会い

そもそも、なぜ彼女は漁師という厳しい道を選んだのでしょうか。「通った高校がたまたま水産高校だったんですが、それは志望校に落ちたから(笑)。でも兄やその幼馴染の友人が通っていて楽しいところだよって聞いたので」と笑顔で話す畠山さん。

高校卒業後は地元のダイビングショップで働き、掛け持ちで結婚式の司会を、そして母校の教員などをしていた畠山さん。そんなある日、ひょんなことをきっかけに鎌倉で女性漁師と知り合ったそう。「“女でも漁師になれるのか”と衝撃を受けました」と畠山さん。何度か漁に同行するうち、いつしか漁師の魅力に取り憑かれていたといいます。

畠山さんの漁船「桜花丸」

困難の連続を乗り越え、葉山初の女性漁師に

「漁師を目指そう。でも、やるなら愛する地元・葉山で」と決意した彼女は、葉山で長年漁師をしていた矢嶋四郎氏に弟子入りし、漁師としてのスタートを切りました。しかしその道は決して平坦なものではなく、ほかの漁師からの反対などもあり、困難を極めたそうです。

けれども2013年、彼女の熱意と努力が認められ、葉山町漁業協同組合の準会員に、2015年には正会員に認められ、葉山で唯一の女性漁師となったのです。

葉山 真名瀬漁港 

1年を通じてさまざまな漁を行う

葉山での漁師の仕事は季節によって異なります。年間を通じて行うのは仕掛けた網にかかった獲物を獲る刺し網漁、夏場は素潜りでアワビなどを獲る潜り漁、冬場は箱メガネと長い竿を使ってサザエやアワビを突くみずき漁、そして2月末からの1か月が漁師としてのメインの収入となるワカメ漁など。

ワカメ漁の季節は気温・水温ともに寒さが厳しく、つらい作業になるそう。そうした厳しい自然を相手にするだけに、危険な目にもあったそうです。

ワカメ漁を行う畠山さん

命の危険も経験した、海との戦い

「海が荒れていたのですが、『そんな時こそ漁のチャンス』と言われ、海へ出たんです。しかしあまりの荒れた海に船は転覆寸前、命の危険すら感じました。ほうほうの体で陸へ戻ると『あの荒れた海に出てったのか?』とビックリされて…。冗談で言っただけで、まさかこんな海に出るわけないとその方は思っていたのですが、私は真に受けてしまったんです…。でもやはり、漁師としての判断が甘く、“この海でも大丈夫”とどこか自分を過信していたんだと思います。自然は甘くありませんね」と畠山さん。

そんな彼女が一番うれしい時は「アワビが獲れたとき。もうお金に見えちゃうくらい(笑)」と茶目っ気たっぷりに話します。「潜り漁は本当に苦しいんですが、前よりも長く潜れるようになり、自分でも成長しているのが分かるのが嬉しいですね」。

この日は大量のワカメを水揚げ

ワカメの根元部分はメカブに

湘南・葉山が大好きなんです

そんな彼女の悩みの一つが、ここ葉山・真名瀬漁港には魚市場がないこと。自分で獲ったものは契約している飲食店に直接卸すか、横須賀などの魚市場に売りに出すため、地元・葉山の方が直接、葉山の海の幸を手に入れることが簡単ではないそうです。

「ここ葉山も辻堂と同じく、近年は東京からの移住者が多いこともあり、葉山に住んでいながら、この地で美味しいタコやイセエビが獲れることを残念ながら知らない方が多いんです。だからこそ、葉山の海産物を地元の方々に直接届けて、もっと葉山の良さ、魅力を知ってもらいたいんです」。そこで畠山さんが中心となって、毎月第2土曜日に漁港近くで朝市をスタート。その影響からか、地元の海の幸の認知度は徐々に高まっているそう。

仲間との共同作業で獲ったばかりのワカメを加工

学生と共同で商品開発も

しかし、彼女の活動はそれだけに留まりません。「ここ葉山が本当に大好きなんです。だからもっと皆に葉山を知ってもらいたい、葉山の魅力を発信したいんです」と畠山さん。そんな活動の一環として、今、彼女が新たに取り組んでいるのが、葉山の海産物を使った名産品づくり。さざえを使った炊き込みご飯の素を試作したり、地域の学生と連携して小魚の加工品をつくるなど、日々研究を重ねているそうです。

大いなる自然の恵みに感謝を

最後に、そんな彼女に今後の目標や夢を聞いてみました。「太陽の光を受け風を感じて、自然の中で仕事をすることは、私にとって最も贅沢かつかけがえのないことであり、生きる術でもあります。そんな自然に感謝し大切に守ることこそ、私の使命だと感じています。今、天ぷら油を使った環境に優しいバイオディーゼルの船もあります。そうした環境に負荷をかけない努力を一つでも行うことが大切だと思うんです」。

「私一人で大きなことはできません。しかし、自分ができることから始め、いつかそれが大きなうねりとなって周りに波及し、良い影響を与えられればいいなぁと。そんな風に思っています」。

そう話す畠山さんの目には、きらめく葉山の海と未来への希望が、眩しいほどに輝いていました。

LINE

畠山 晶(はたけやまあきら)

1985年生まれ。漁師(葉山町漁業協同組合正組合員)。神奈川県立三崎水産高等学校(現・神奈川県立海洋科学高等学校)卒業後、様々な職を経て2011年、葉山のベテラン漁師・矢嶋四郎氏に弟子入り。2013年に葉山漁協の準会員、2015年に正会員となり、葉山漁協初にして唯一の女性漁師に。2013年12月より仲間の漁師に呼びかけ、真名瀬漁港で朝市を実施し、今や人気イベントに成長している。

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