「Calling the Sea」〜見えざる美を一枚の写真に 写真家・芝田満之

Terrace Mall Magazineでは、「自分らしく前にすすむ湘南の人々」のリアルな生き方を、2018年春のテラスモール湘南のリニューアルに重ねあわせ、インタビュー形式でご紹介しています。
今回は、多彩な海の表情を捉えた写真で高い評価を受けている写真家、芝田満之さんです。

それは確かに海である。そして、空と地平線。写真に描かれているのは、ただそれだけ。けれども何故か心は揺さぶられ、ざわつきを覚える。ある時は平穏と感傷を感じ、ある時は荘厳と畏れを、あるいは永遠と悠久を…。

湘南の海をテーマに写真を取り続ける芝田満之さん。葉山在住の芝田さんの目に映る海は、決して同じ表情を見せません。果たして彼はどんな目線で、海を撮り続けているのでしょうか。

サーフィン写真から海の写真へ

16歳でサーフィンに魅せられ、湘南の海に通うようになった芝田さん。やがて、18歳になると湘南に居を構え、日本初のサーフィン雑誌の創刊とともにサーフィンカメラマンとして活躍します。その後、一旦は海から離れ、大手企業のポスターやCFの撮影など活躍の場を広げますが、再び第2の故郷である湘南・葉山の地へ。それからというもの、サーフィンカメラマンとは違う新たな視点で海と向き合い、写真を撮り始めます。

「海が一番美しい瞬間は、まだ夜も明けきらぬ朝の宵、または陽が沈み周囲が暗闇に包み込まれようとする刹那。こんな誰も見ていない時間が一番美しいんです」と芝田さん。海の写真を撮り続ける最大の理由は、自身がサーフィンを楽しんでいるときに肌で感じた“これが最高”という景色を再現したかったからだと言います。

今でも現役のサーファー

湘南の海すべてが、活躍の舞台

その現れのひとつが2010年に発表された写真集「saltwater Sky」。自分の記憶を頼りに、撮りためた海の写真を集めて再編集したもので、見たこともない幻想的な海の世界が広がるこの作品は、出版後すぐに大きな話題をさらいました。

そんな芝田さんが写真を撮るのは主に夜明けと夕暮れ、場所は葉山を中心に大磯まで、湘南のビーチすべてが撮影の場。天気図などを参考にしながら、最高の撮影日やスポットを瞬時に判断し、車を止めるべきかまで、すべて長年の経験から熟知しているそう。しかし、撮影はそんな簡単なものではないようで「時には寝袋にくるまって夜を過ごし、最高の瞬間をただひたすら狙う」こともあるとか。

さらに「私は海と空、地平線しか映さず、シンボルマークなるようなもの、例えば富士山や江ノ島、えぼし岩などいわゆる“湘南らしい光景”は撮りません。なので、富士山に背を向けて三脚を構えていると『そっちじゃないよ、富士山は向こうだよ』って親切に教えてくれる人もいて(笑)。うん、分かってるよって(笑)」というエピソードも。

温かい雰囲気に包まれた、テラスモール湘南でのトークショー

そんな芝田さんの新たな写真集「Callig the Sea」の発売を記念して、去る6月10日(日)にテラスモール湘南3階のくらしテラスにてトークショーが行われました。会場の周りに飾られた美しい海の写真に足を止めて見入られる方も多数いる中、芝田さんのサーフィン仲間も多く詰めかけ、会場はアットホームな雰囲気に。雑誌「SHONAN TIME」の編集長・富山英輔氏の司会のもと、今回の作品の撮影秘話やディープな話を披露してくれました。

「湘南の方々は海のすぐそばに住んでいますが、本当に美しい瞬間を知らない。海が身近にある方にこそ、最高に美しい瞬間というものを見てほしい。そんな思いから今回の写真集が完成したのです」(芝田さん)。そんな芝田さんの説得力のある言葉が会場の方々の心に響きます。

「『Calling the Sea』は、見えない部分を見せたもの。『saltwater Sky』を制作過程で記憶を再現するなかで、より記憶のイメージを増幅した結果、生まれたものなのです。“見方を変えることで、隠されていた美が見えてくる”。この作品には、そんなメッセージも込められているんです」と芝田さんは語ります。

大切なのは、空気がだいたい透明であることだ

本作品には旧友である作家・池澤夏樹氏の文章が随所に添えられ、圧倒的な引力を持つ写真に独創的な世界観と凄みが加わり、読み手の心を打ちます。「断言しますが、もうこれ以上の作品はできない。これぞ“最高の完成形”です。今作品で、一つの大きな区切りを迎えました」と自身の確かな仕事に胸を張ります。

そんな芝田さんに、今後の活動、そして夢や希望を伺ってみました。「実は次の作品構想は頭にあり、ある程度カタチになっています。後はどう煮詰めて仕上げていくかですが、それが一番難しい」と、作品の産みの苦しみを語ります。

「あとは趣味のフライフィッシングを北海道でやりたいですね。フライはすべてが洗練されていて、10年やって“やっと普通”、20年やって“やっと一人前”。サーフィンと同様に奥の深さがあり、自分の実力が試されるスポーツ。自分の実力がまざまざと突きつけられるシビアさがある。そんな所に強く惹かれるんです」と芝田さん。

トークショーには多くの友人・知人も

“自分のレベルで勝負をしなさい”

湘南の海を「Calling the Sea」でひとつの究極の形として現した芝田さん。では、新たに北海道の川や山を撮ってみたいかを聞いてみましたが、海しか撮り続けないそうです。「海は“自分のレベルで勝負をしなさい”と私に教えてくれる偉大な存在。決して離れることはありません」(芝田さん)。

芝田さんの目には、今はどんな海が映っているのでしょうか。そして次は、私たちにどんな驚きと感動を与えてくれるのか。微かな胸の高鳴りを覚えずにはいられません。

LINE

芝田満之(しばたみつゆき)

1955年生まれ。葉山在住。写真家。ロマンチックで抒情的な写真は、サーフィン界のみならずさまざまな分野から高く評価され、広告を中心にグラフィックやCFなども多数手掛けている。代表作に「Daze」「SUMMER BOHEMIANS」「saltwater Sky」や、池澤夏樹氏との共作「カイマナヒラの家」など。現役のサーファーでもあり、本人曰く「逗子マリーナ沖がベストポイント」。

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