ゆるやかな湘南のリズムに、素朴なハーモニーをもたらす ウクレレ製作職人、三井達也さん

2018年春のリニューアルで新しく生まれ変わるテラスモール湘南。これからも自分らしく前にすすむ湘南の皆様と一緒に歩んでいけたら。そんな想いを表す言葉として、「すすもう、湘南。」をテラスモール湘南は掲げました。

Terrace Mall Magazineでは、「自分らしく前にすすむ湘南の人々」のリアルな生き方を今回のリニューアルに重ねあわせ、イメージビジュアルにご登場いただくほか、インタビュー形式でもご紹介していきます。

今回は、七里ガ浜でウクレレを製作するかたわら、ウクレレ教室も主催する三井達也さんにお話をうかがいます。

心地よい陽射し、薫る潮風、そしてビーチでサーフィンを楽しむ人々…。こうした共通点から湘南とハワイは親和性が高いとされ、フラダンスやグルメ、ハワイアンキルトなど、ハワイのカルチャーが湘南にはしっかりと根付いています。そのフラダンスに欠かせないハワイアンミュージックにおいて、主役となるのがウクレレ。素朴でシンプル、どこか懐かしさを覚えるような響きは、自然と聞き手の心を癒してくれます。

ウクレレはもちろんハワイ発祥の楽器ですが、ここ日本にも優れたウクレレ作家がいるのをご存知でしょうか。その方こそが、七里ガ浜に在住の三井達也さん。これまでに製作したウクレレは404本を数え、そのデザインや音色の美しさから「ミツレレ」とも称されるほど。そんな三井さんに、ウクレレにかける情熱、そして湘南の魅力をうかがいました。

導かれるように、ウクレレの道へ

「学生時代に隣の部屋からウクレレの音が聞こえてきて、初めて聞く素朴で高い音色に“なんかいいな”と思ったのがウクレレに触れるきっかけです」と三井さん。

やがて自動車のプロダクトデザインをする仕事に就き、神奈川へと移り住んだ三井さんですが、ある時、「独身寮のエレベーターで何気なく『ウクレレを弾こうかな』と呟いたら、知り合いが『私持っているから貸そうか?』と、またラジオから流れる聞いたこともないウクレレの演奏に驚き、『こんな風に弾いてみたい』と思っていたそばから、友人が『一緒にウクレレ習いに行かない?』って誘われて…。ウクレレに関してはすべてうまく行くというか、まるで導かれるようにその道に進んでいくんです」と三井さんは語ります。

胸を張って“自分の仕事”と言える、ウクレレ製作

そこから現在の七里ガ浜へ、生徒としてウクレレを習いに月に数回通うようになった三井さんでしたが、ある日先生からこのウクレレ教室と家を引き継がないかと相談されたそう。

「クルマのデザインは自分ひとりでやるものではなく、チームの共同作業。例え自分が納得いかなくても、チームで決めたことには従わなければなりません。そういうものに対して胸を張って“自分の仕事”と言えない自分がもどかしかったんです」と三井さん。

「その点、ウクレレ製作はすべてが自分ひとりの作業。成功も失敗もすべて自分の責任。そんな自分ひとりですべてが完結するのが良かったんです」。そんな事情もあり、仕事を辞め七里ガ浜へと居を移し、本格的にウクレレ製作を開始したのが1998年のことでした。

多くの生徒が通う、三井さんのウクレレ教室

デザインと機能性を、とことん突き詰める

今では製作依頼が多いため、「お客様を待たせてしまっている状態」というほど人気の高い三井さんのウクレレ。その人気の秘密は、三井さんならではのオリジナリティがあるデザインにあります。

見た目はどことなくアンティークな雰囲気、そしてボディの一部に箱根の寄木細工をあしらった日本らしさ、そしてボディを隈取るラインも黒ではなく、茶系を使用しナチュラル感を表現するなど、細部へのこだわり…。このウクレレを見た瞬間に「あ、これは三井さんが造ったものだ」と一目で分かります。

また、三井さんのウクレレの魅力はデザインだけではありません。高音を弾きやすくするため、ボディに近いフレットはサイドを斜めに面取りしたり、コードを弾く際に運指がしやすいようヘッド部分までのネックを長くしたりするなど、弾き手ならではの演奏のしやすさ、機能性も重視。こうした“微に入り、細をうがつ”ものづくりへのこだわりが、作品の完成度を高めているのです。

工房にこもってひたすら製作作業の毎日

気分転換は、海辺の散歩

自宅に設えた工房で、ウクレレ製作に追われて籠りっきりという三井さんですが、気晴らしは日課である七里ガ浜の海までの犬の散歩。「湘南は時間の流れがゆっくりで暮らしやすく、のんびりとした自分とペースが合うんです」と三井さん。たまの休日には、趣味の自転車で相模川あたりまでサイクリングを楽しむこともあるとか。

工房からは七里ガ浜の海を見渡す

富士山頂でウクレレ演奏を毎年実施

ウクレレ教室を受け継いで10周年を記念して、富士山頂での演奏会を始めたり、斬新で新しいウクレレづくりに取り組んだりと、常に新しいことに挑戦している三井さん。そんな彼に、今後やってみたいことを聞いてみました。

「湘南ではウクレレはメジャーで、ウクレレ教室も数多くありますが、地方ではまったくと言っていいほどない場所もあります。そんなウクレレをもっと全国的に普及させたい。…まだ、そこまで大仰なことは言えないのですが。」

生活にジャストなサイズで、暮らしに豊かさをもたらすウクレレ

ウクレレの良さは、手軽なサイズ感と携帯性の良さ。そして音色も音量も適度な大きさなので、どこかで聞こえても不快ではない点にあるという三井さん。

「ウクレレは家だけではなく、海やキャンプ場、旅行先とあらゆる場所で音色を奏でることができ、生活を豊かにしてくれる“自分のパートナー”なんです」。そんなウクレレの魅力を伝えるため、「夢のような話かもしれませんが。キャンピングカーで日本全国を旅しながら期間限定のウクレレ教室を開いてみたいですね」(三井さん)。

ウクレレ製作にウクレレ教室と忙しい毎日に追われる三井さんですが、その毎日を癒してくれるのは湘南ならではの、ゆったりとしたリズムとウクレレの素朴な音色。海と山、豊かな自然とのハーモニーを描きながら人生を謳歌する、少し控えめながら確固たる自信を持った“職人”の姿が眩しく映りました。

LINE

三井 達也(みついたつや)

1967年生まれ。大学卒業後、日産自動車株式会社入社。テクニカルセンター デザイン本部に所属し、デザイン職に従事。会社員時代から趣味で行っていたウクレレ演奏、製作が高じ、ウクレレ講師&ビルダーに転身する。2001年から「ukulele studio 七里ヶ浜」を主催。これまでに404本のウクレレを製作し、丁寧な仕事ぶりとクオリティから、多くのファンを獲得。その人気は「三井さんのウクレレ」=「ミツレレ」という愛称がつくほど。

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